ニキビを抗生物質で治せる?
専門家たちは、『抗生物質はある種ニキビに有効だが、対症療法にすぎない』と口をそろえます。
また、抗生物質を使うことによって起きる問題に注目する必要があります。
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ニキビに抗生物質が使われることがあります。例えば、『ようこそ!私のニキビクリニックへ―さあ、お入りください。ニキビ完治への最後のドア…』にはこうあります。
アクネ菌や細菌を抑える抗菌剤にはナジフロキサシンという成分の外用薬が用いられています。これは抗生物質様の作用があり、化膿を抑えますから、膿疱の治療には比較的よい効果が出ますが、初期のコメドにはほとんど効果がなく、欧米の薬と比べて消炎効果は弱いようです。またこの薬には活性酸素をを抑える作用も少しはあるようです。これらの外用薬に比べて、ミノマイシンという内服薬は比較的よく効きます。ミノマイシンには抗酸化作用があり、活性酸素を抑えて皮脂が酸化されるのを防いでくれます。私もよく使う薬ですが、難点は、患者さんに効くタイプと効かないタイプがあることです。
著者によると、抗生物質には効く、効かないがあり、万能ではありませんが、活性酸素を抑えて皮脂の酸化を防ぐため、ニキビにも有効なときがあると言います。
ニキビの原因と治療法
ニキビの症状・原因 | 従来の治療法 | 最新の治療法 |
---|---|---|
毛孔の角質肥厚(異常角化) | イオンカンフルローション外用 | レチノイド外用、ベンゾイルパーオキサイド外用、グリコール酸外用 |
過酸化脂質脂肪酸 | ミノマイシン内服 | クリンダマイシンローション外用、リン酸ビタミンCローション外用 |
活性酸素 | ナジフロキサシンローション外用、ビタミンc内服 | リン酸ビタミンCローション外用 |
アクネ菌などの細菌の繁殖 | テトラサイクリン系(ミノマイシンなど)、マクロライド系(クラリス、ルリッドなどの抗生物質の内服)、ナジフロキサシンクリーム・ローション外用 | ベンゾイルパーオキサイド外用、クリンダマイシンローション外用、アゼライン酸外用 |
皮脂の増加、脂性肌 | 洗顔などの生活指導 | リン酸ビタミンCローション外用 |
ただ、これは2001年に出ている本ですからね。ここで言われている『従来、最新』という概念も、20年経っている今は違っているでしょう。同じく、同時期に出されている本、『ニキビ・トラブル肌は諦めないで私にまかせなさい』にはこうあります。
抗生物質の使用
炎症、特に化膿した場合には、抗生物質が必要になってきます。よく使われるものとしては、エリスロマイシン、エリスロマイシンと亜鉛、クリンダマイシンなどがあります。
今のところ、
という抗生物質が挙げられていますね。では、それから少し経った2008年に出た本『これでわかるニキビの治療とケア~安易に抗菌薬に頼っていませんか?~』(南江堂)を見てみましょう。
抗生物質含有外用薬
外用薬の中で、日本で最も一般的に行われている治療は抗生物質含有外用薬による治療である。とくに日本ではニキビに適応のあるリンコマイシン系のクリンダマイシン(ダラシン)と、ニューキノロン系のナジフロキサシン(アクアチムなど)が汎用されている。ナジフロキサシンは抗菌作用をもち、クリンダマイシンは抗菌作用の他に抗炎症作用をもつことが知られている。また両社とも弱い抗面疱作用を有している。抗生物質含有外用薬の欠点は菌耐性を生じやすいことで、英国では2001年にp.acnesに対する耐性が67%に生じていたと報告されている。
出てきた抗生物質は同じですね。クリンダマイシンとナジフロキサシンです。しかしやはり各専門家たちは、『抗生物質はある種ニキビに有効だが、対症療法にすぎない』と口をそろえます。
例えば、『ようこそ!私のニキビクリニックへ―さあ、お入りください。ニキビ完治への最後のドア…』にはこうあります。
こうしてみると、日本の治療は化膿や炎症を抑えることに主眼がおかれていることに気づかれたと思います。いってみれば対症療法で、ニキビの主因である皮膚の異常角化や活性酸素には有効な対策をほとんど講じていません。これではニキビを根本から治すのは不可能です。
抗生物質はニキビの化膿や炎症を抑えても、根本治療にはならず、対症療法であり、耐性がついてしまうことを考えると、いささかニキビ治療の最良の策とは言えそうもありません。著者は、『それよりも大事なことがある』として、『生活習慣の最適化』を主張しています。ではここで、ニキビができる原因を見てみましょう。
ニキビができる原因(内因性)
ニキビができる原因(外因性)
その他
ニキビは一つの原因によって発症するわけではないので、このすべての要素を最適化することが求められます。つまり、抗生物質だけでニキビを治療する『アウトサイド・イン』の考え方は、間違っているんですね。
『自分の心が変われば自分の周りは変わっていく』と発想するということ。
『外の環境が変われば自分も変わる』と発想するということ。
このような自分自身の問題は常に、インサイド・アウトの発想が求められます。また、下記の記事に『一番の怖さはステロイド依存』という内容について専門家の意見を載せましたが、ステロイドについても、お酒やタバコについても同じことが言えます。
ニキビにステロイドを塗るのは効果がある?やめておいた方がいい? – Inquiry. |
タバコはニキビの原因になる?喫煙がもたらす8つの美容悪化効果 – Inquiry. |
赤ワイン・ビール・日本酒等のアルコールはニキビの原因?それとも治療の対策の一つ? – Inquiry. |
抗生物質がニキビにとっての特効薬ではなく、その服用が対症療法的な治療の選択肢の一つである以上、抗生物質に頼る治療はやめたほうがいいでしょう。
更に、抗生物質はそれ以外にも人間の心身に影響を与えます。上記の記事に書いたように、インペリアル・カレッジ・ロンドンで生物学の学士号と修士号を取得したのち、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンおよびロンドン動物学協会で進化生物学の博士号を取得したアランナ・コリンが2016年に書いた『あなたの身体は9割が細菌』にはこうあります。
21世紀は、微生物との戦いがいわば休戦状態となっている。予防接種、抗生物質、水質浄化医療現場の衛生習慣で感染症を抑え込めるようになり、私たちはもはや感染症の発生に脅かされることはなくなった。そのかわり、それまでめったになかったような病態が、過去60年間でつぎつぎと出てきた。こうした一連の慢性的な『21世紀病』は、あまりにあちこちで見聞きするため私たちは日常的な『ふつう』のものとして受け入れてしまっている。だが、はたしてそれはほんとうに『ふつう』なのだろうか?
人間の1900年の全世界的な平均寿命は、31歳でした。先進国では50歳。日本はよく50歳だったと言われます。しかし、それがこの100年、更に厳密に言えば『抗生物質が普及した1940年代の10年』を境に、人類はこれまでの倍の時間を生きるようになりました。
このようなものを体内に取り入れるようになってから80年。アトピー性皮膚炎を含めた21世紀病は、人間の寿命を延ばすとともに、劇的に増えたのです。つまり、『薬等の不自然なものを体内に入れるようになった』ことで、人間の腸内微生物のバランスが悪くなり、
等の『21世紀病』に罹患するようになったというのは、各専門家たちが口をそろえる事実なのです。
抗生物質やステロイドというのは『不自然な物』です。これらの登場によって人命の寿命は伸びたかもしれませんが、同時に失ったものがあると専門家たちは言います。本にはこうもあります
抗生物質が免疫系のふるまいを変えたぐらいで新たな病気になることはないだろう。とみなさんは思っているかもしれない。だが、85,000人を対象にした試験では、ニキビの治療に抗生物質を長期服用した患者群は、抗生物質を使わなかった対照群に比べて2倍も多く、風邪その他の気道感染症に感染していた。大学生を対象とした別の似たような試験では、抗生物質治療群が風邪を引くリスクは対象群の4倍という結果が出た。
因果関係ではなくあくまでも相関関係にとどまりますが、たしかにこのような事実があるようですね。
更に本にはこうあります。
新しい研究によれば、これまで私たちは間違った場所を探していたようだ。アクネ菌がニキビを引き起こすというのは数十年前の古い考え方で、発疹の中を覗いてみたらアクネ菌がいたという、ただそれだけのものだ。同じアクネ菌が、ニキビを患っている人の皮膚にも健康な人の皮膚にも棲息しているという事実、アクネ菌が見つからない発疹もあるという事実は無視された。アクネ菌の多さとニキビの重症度にも、皮脂や男性ホルモンの量とニキビの発症しやすさにも、相関関係はなかった。
ところが、抗生物質で症状が改善することが多かったため(皮膚に直接塗布する方法でも、薬として飲む場合でも)、アクネ菌説は通用していた。抗生物質の投与はごく一般的なニキビ治療法で、多くの人は何か月も何年もその治療法を続ける。しかし、抗生物質は皮膚の細菌だけに作用するのではない。腸の細菌にも作用する。これまでにも語ってきたように、抗生物質は免疫系のふるまいを変える。ひょっとすると、それがニキビにかえってよくないのかもしれない。近年では、アクネ菌はニキビの発症を左右する要素でないことが明らかになりつつある。
アクネ菌が皮膚においてどんな役割を果たしているか、2016年、この著者が書いた段階ではまだ明らかになっていないようですね。しかしこの発想は画期的で、当サイトでも再三『皮脂をアクネ菌が食べて増殖し、コメドができる』と記載しています。それは、各専門家たちがそう言うからですね。しかし実際にはそうじゃない可能性があり、更には抗生物質の弊害が懸念されているわけです。
更に本にはこうあります。
研究者らはボランティアで参加した健康な被験者を二群に分け、一方には抗生物質のクリンダマイシンを7日間与え、もう一方には与えなかった。クリンダマイシン投与群では薬の投与を開始した直後から微生物の組成が劇的に変わった。とくにバクテロイデス属の細菌が急激に多様性を失っていた。研究チームは薬の投与を終えたあとも両軍のマイクロバイオータを数か月ごとに追跡調査したが、研究終了時になってもクリンダマイシン投与群のバクテロイデス属の細菌は元の組成比に戻らなかった。クリンダマイシンの投与は二年も前に終わっているのに、である。
クリンダマイシンの投与が腸内細菌の多様性を奪い、元に戻ることはなかった。この研究結果が何を意味するのかは興味深いところです。まだあります。
ニキビ治療のために数か月あるいは数年、ミノサイクリンという抗生物質を使っている10代後半や成人は、そうでない人に比べて狼瘡(ろうそう)を発症するリスクが2.5倍高いという。狼瘡は、体のあちこちを攻撃する自己免疫疾患で、患者の多くは女性だ。男性はミノサイクリンを使っていても狼瘡を発症することはほとんどない。2.5倍という数字は男女含めて割り出したものであり、女性のみに限定すれば、ミノサイクリンを使用したあと狼瘡を発症するリスクは5倍に跳ね上がる(ミノサイクリン以外のテトラサイクリン系抗生物質ではここまでリスクは高くならない)
ミノサイクリンという抗生物質を女性が使った場合の、『狼瘡発生のリスク』ですね。5倍に跳ね上がる事実があるというのです。
結核菌が血行により運ばれ、全身の皮膚、特に顔面の組織が破壊されて結節・潰瘍(かいよう)・瘢痕(はんこん)などができる病気。
抗生物質というのは、やはり簡単に頼るべき薬ではないのかもしれません。そう考えると、抗生物質に頼るのではなく、その他のニキビの要素を全て最適化する方が賢明であり、最善の選択肢と言えるでしょう。やることはたくさんあります。先ほど挙げたニキビの原因、そのすべての要素を最適化しないと、ニキビはでき続けます。アクネ菌だけが原因ではない以上、やることはこれだけありますが、逆に言うとそれだけやりがいがありますね。もしこれらの要素がないがしろにされていたなら、
そりゃあできて当たり前か。逆にこれを最適化したら効果が実感できそうだ!
と前向きに考えるのが正解です。元々、人間の技術というのは常に『今が最高』ではありません。それを理解するためには下記の記事を読むといいでしょう。
IQ – IQ |
例えば、2007年に出た『ニキビちゃんこそ美人になれる』にはこうあります。
でも、どの皮膚科でもニキビの治療は『ニキビは清潔にして、乾燥させるのが第一』と説明をして、ビタミン注射をした後、イオウカンフルローションと呼ばれる黄色い粉が入ったローション状の塗り薬を処方されるとういのがお決まりのコース。清潔にするのは正しいのですが、乾燥させるというのは、今にして思えば決して正しいニキビケアではありません。(中略)つまり、イオウカンフルローションのせいで、カラスの足跡ができるくらい、私の肌はバリバリに乾燥して、いかにも新陳代謝が悪くなったような状態になり、肌はくすみ、小じわだらけの顔になっていったのです。
2000年より前の時代は、イオウカンフルローションという薬が使われていましたが、今ではそれはあり得ない治療法です。しかし、あれからさらに時間が経った今、そして更にこれからの未来に、『現在ある程度効き目があるが、いささか首をかしげる点もある、とされている抗生物質』は、どうなっているでしょうか。抗生物質による治療は、『ニキビ治療の最高到達地点』なのかどうか考えてみましょう。
やはり、真理から目を逸らさない人は、昔の人でもこういった『不自然なものはよくない』という真理に気づいていました。真理というのは、『いつどんなときでも変わることのない、絶対不変の事実』。過去も現在も、そして未来永劫変わることのない事実です。その点、先ほど挙げた睡眠不足等の一切の要素の最適化をすることは、真理の面から見て、全てつじつまが合っています。『木を見て森を見ず』ですね。アウトサイド・インにの発想に依存し、インサイド・アウトの重要性に気づけないのは、人間の知性の『浪費』と言えるかもしれません。