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考察
イギリスの探検家、ラポックは言う。
人間は他人と比較し、自分の幸福度を確かめてしまう傾向がある。行動経済学者ニック・ボーダヴィーの著書、『幸福の計算式』にはこうある。
1940年代の終わりには、少数の経済学者たちの間に、もしかすると人間は私たちが思っているほど理性的ではないのかもしれない、という過激な考え方が現れた。当時のもっとも過激な考え方は、アメリカの経済学者ジェームズ・デューゼンベリーによって示されたものだ。彼によると私たちの行為は、頭の中にある抽象的ルールだけでなく、コミュニティの他の人たちの行為によっても決定づけられるという。
消費に関する主流派経済学の理論である『恒常所得仮説』とは、家庭における消費活動は、現在の収入よりも長期にわたる平均の収入に左右される(つまり恒常的な)、というものだ。ノーベル賞受賞者であるミルトン・フリードマンによって初めて示されたこの仮説によると、人々は─彼らが完全に理性的であると仮定すると─気まぐれな消費活動よりも安定した消費活動を選び、収入に一時的なあるいは短期的な変化があっても、その消費傾向はほとんど、あるいはまったく影響を受けないという。つまり消費活動は、その人が生涯にわたって得ることを期待できる収入だけに左右され、他人の消費活動には影響を受けないというわけだ。
この仮説に従えば、マサチューセッツ工科大学を卒業して投資会社で研修を受けている若者は、歴史学の博士号を取得したヨーク出身の若者に比べて、現在の収入が同じであっても、より多く消費するだろう。ビジネスを先行した人のほうが将来ずっと多くの収入を見込めるので、それに見合った消費活動をする。それだけの余裕があるとわかっているからだ。
一方デューゼンベリーは、個人の消費活動は、自身の抽象的な生活水準よりも隣人と張り合おうとする気持ちに左右されると主張した。後に『相対所得仮説』と呼ばれるこの説によれば、歴史学の博士号を取得した若者が、隣人であるマサチューセッツ工科大学卒の若者が自分より多くお金を使っているのを目にすれば、生涯にわたって得る収入が違うかどうかに関係なく、もっと多く消費するようになる。『隣人と張り合う』ためにお金をより多く使うようになると言う考えは、当時の主流派経済学にとっては受け入れがたいものだった。人々の選択が他人の行為によって大きく左右されるという考えは、多くの人にとっては突飛で非合理的だと思われたのだ。
私はホンダ車が好きで、買う余裕があるから、ホンダ車を買ったのだ。─隣人がホンダ車を持っているから、自分も持っていないと不幸になるから、ではない!
ノーベル賞を受賞したフリードマンと、無名のデューベンゼリー。どちらが正しいだろうか。本は、デューゼンベリーだと言う。我々も、それを心底では、肯定するのではないだろうか。実は、私の実家の隣には、えげつない豪邸が生まれた時から建っていた。生まれたときからあったわけだから当たり前だと思っていたが、これが30年後、蓋を開けてみたら、とんでもない資産家だったということが判明した。規模が違うのだ。
しかも30年もの間それがわからなかったということは、私が興味が無かったこともあるが、防衛管理がずば抜けているということ。つまり、塀の向こうは常に、一般人ではおよそ想像もつかない非日常的な空間と時間が流れているのである。隣人にたまたまそういう家庭があった。これはもちろん、私の人生にも大きな影響を与えた。例えば、大きな松の木の枯れ枝がうちの花壇に落ちてきて、せっかく作った花壇が、枯れ枝まみれになり、それを掃除しなければならなかった。
私がそれを我慢できるわけが無かった。当然法律を調べ、写真を撮り、民法第233条一項に則り、怒鳴り散らす準備を整えた。しかしそれをやったところで、そんな『小さな勝ち』を得たところで、何ににもならないことを悟り、自分のちっぽけさを悟るだけだから、結局やめた。それよりもこの環境を利用して、『大きな勝ち』を得るべきだと判断した。類稀な環境なのだ。そのエネルギーは、良いエネルギーになる。私はそう決断し、心の片隅にこの隣人との問題を置いて、人生を前に進めている。
これを考えても、我々はデューゼンベリーの言う様に『隣人に影響されている』ことは明白。だが、ラポック、コンドルセの言う様に、それを『負のエネルギー』だと思わずに、『正のエネルギー』に転換することが重要なのだ。他人が生きるエネルギーを妬んだり、恨んだりするのではない。むしろそれを『エネルギー源』にして、自分の活力として爆発させればいいのだ。
『切磋琢磨』の発想と同じだ。あくまでも他人は他人、自分は自分なのだ。他人とはいいライバル関係のような立ち位置で、人間関係を築くのが良い。後は自分の環境や信念の中、出来る限りの人生を生き貫くことが好ましいのである。
※これは運営者独自の見解です。一つの参考として解釈し、言葉と向き合い内省し、名言を自分のものにしましょう。
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