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考察
『芸術なんてもの、それを見極めて捨てたところから開けるものなんだ。芸術に憧れたり、恐れたり、糾弾したり、追いかけたりしている間は、まだ本当の芸術に到達することはできない。』
『守破離(しゅはり)』とは、型を徹底的に守る『守』、それを破ることに挑戦する『破』、そしてそれらを根幹に置いた上で自己流でやる『離』といった、3つの段階のことを指す。これを考えた時、往々にしてこれが当てはまることに気づく。武道でも、スポーツでも、仕事でも、子育てでも全てそうだ。『守破離』の段階は、往々にしてある。
『守』の段階にいる間は、まだ『自己の放出』が出来ない。守られた殻の中で、基礎と、その『自己』を熟成させ、あるいは、この世界が何であるかを熟考する時期だ。
殻を破ってぐるりと見渡すと、更に新たな見解が持てて、
殻を飛び出したとき、いよいよそこから『新世界』が始まる。
つまり本番は『離』。だがそれを短絡的に考え、『守破離』の段階をないがろにする場合は、潜在能力を最大に顕在化できない。『見極めて』から初めて『離』の境地に行けるのだ。どちらもないがしろにすることは出来ない。それに、その中間である『破』で躓く人間が圧倒的に多いのだ。『破』とは、主体性がどれだけ発揮できるかが問われる時期である。そこで挑戦したときに受ける風当たりに耐えられない人間は、また『守』の段階に引き戻され、基礎の徹底をやり直すことになる。
あるところに、いじめっ子を見返すために、強くなりたい少年がいた。
(やられる前に、やるしかない)
彼は強くなりたいから、武道を習いに同情の門を叩いた。無我夢中で練習を積み重ねた。彼はしばらくすると、いじめっ子をあっけなく退治することが出来た。彼の心は、何とも言えない解放感に満たされていた。自信を持った男は、その内、それで食べていこうという気持ちが芽生え、想像を絶する努力と時間の積み重ねで、ようやく免許皆伝の境地に立った。
しかしそこの師範には、
師範
と言われ、何だか癪に障ったが、とにかく念願だった自分の道場を開いた。やられる前に、やるしかない。彼の血気盛んで野心的な生き様にはカリスマ性があり、それに感化され、多くの門下生が出来た。しかしある日、門下生の中の問題児の一人が、取り返しのつかない傷害事件を起こした。
その門下生は言った。
門下生
彼は、『強さ』と『道場の存在意義』について葛藤した。自分は強くなりたいと思う一心で、門を叩いた。虐められたのだ。それを見返したかった。それで道場まで持つことが出来た。しかし、その道場で不祥事が起きた。自分が教える道場の門下生に、『強さ』の意味をはき違えた人間が育っていたのだ。しかし彼は間違いなく、自分の門下生(流儀を教わった人間)だったのだ。
武道とは何か。強さとは何か。何の為に武の道を追求するのか。何の為に強くなるのか。かつての師匠の言葉が、今頃になって頭をよぎった。来る日も来る日も考え抜いた結果、彼は『孫子の兵法』の、『戦わずして、勝つ』という極意に辿り着いた。だが、曇りなき眼でその兵法の教えに更に目を凝らしたとき、実はその極意は正しい極意ではないことに気が付いた。
それを勘違いしている人は大勢いる。それは当然、自分も同じだった。あの兵法の極意は、『戦わずして、勝つ』ということではなかった。『戦わずして、負けない』ということだったのだ。彼は思った。
強さについて追及するたびに、『相手を打ち負かす』発想とは、かけ離れていく。 強さの極意とは、やられる前にやることでもなければ、勝ちに執着することでもなかった。自分の心の中に、絶対不動の確信を持つこと。それを、武道という一つの道を通して学ぶべきだったのだ。
彼は、強さを追い求め、武道の門を叩いた。しかし、その道の延長線上で、道を踏み外す弟子が現れてしまった。その原因は、『初期設定』である自分の間違った心にあった。やられる前にやる。『力』を支配し、『力』で支配する。そんな傲慢な初期設定の考え方に、誤りがあったのだ。これは、必死だったあの頃(守)には、とても考えることは出来なかった。自分の流儀として道場を持ち(破)、そこでそのやり方を貫き通して初めて、表面化された事実だったのだ。
男は道場をたたんだ。なぜなら、もう『強さ』が何であるかを、悟ったからだ。その『離』の境地は、『守破』の段階を踏まなければ到達できなかった境地だった。
かつてのカリスマ性に憧れた者達が、たまに男を訪れることはあった。だが彼らの浮ついた目を見るや否や、男は彼らを追い払った。ある日、そんな彼らとは少し雰囲気の違った一人の少年が彼のもとを訪ねて来た。
男は言った。
男
少年は涙ながらにこう言った。
少年
男は彼を通して、今までの人生を振り返った。そして、静かに笑い、こう言った。
男
※これは運営者独自の見解です。一つの参考として解釈し、言葉と向き合い内省し、名言を自分のものにしましょう。
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