藤木と山田-2
前回の記事：藤木と山田
また、このテーマについて考える時、
とあるふと見た雑誌の漫画の内容が頭に焼きついていて忘れられない。
それはその言葉と同じように、海外の刑務所の中での話だった。
その場所は、刑務所内でも地下深く、月の光も当たらないような暗闇の中に、
鉄格子の部屋が円を作るように囲われた地上最悪の空間だった。
中に居る人間は、皆無期懲役で、一生をその中で生きていかなければならなかった。
後悔と絶望に打ちひしがされた受刑者たち。
その中には、もう何年も布団から顔も出さず、
ただ食器口から入れられた栄養もままならない食事を、布団の中に引き入れて食べ、
そして寝るだけの生活だった。
それだけ、絶望的な生活だった。
そこへ、ある一人の男がやってきた。
この男がこの漫画の主人公。
たしか、マンガのラストに近いような状況だった。
わけあって国家レベルの突出したことをしてその空間に入所することになった
その男が言った言葉は、
やはり突出していた。
その男は、その薄暗く、これ以上は考えられない絶望の要塞の中で、
両手を突き上げこう叫んだ。
『よおぉぉぉし！！なーんだお前らは辛気臭せなあ！！
…俺たちは、自由だ！！』
ざわつく所内。
『なにが自由だ！？血迷ってんのかテメエ！！気でも狂ったか！』
どこの部屋からかそんな声が聞こえてくる。
だが男は続けた。
『いいか！俺たちはな、やることをやってここに居るんだ。
それは当然の結果だ！
人のルールを破ったんなら、覚悟を決めろ！
だがな、俺たちにだって、自由はあるんだ！俺たちは、選べる！
今日を生きることを！
明日を生きることを！
死ぬなら死ねるだろ？
だがお前らは死んでない。
生きることを、選択してんだよな！？
だったら俺達にはまだ選択の自由があるじゃねえか！
俺たちに残された最後の余生、
くよくよと辛気臭く終わらせるか、
前を向いて最後まで全力を振り絞って生き貫くか！
人間は、自由な生き物なんだよおおお！！！』
男の叫び声が、牢屋中に響き渡った。
すると、あの布団の中の男が、その言葉を聞いて布団から顔を出した。
突出した経験を持つその男の言葉には、類を見ない言霊が宿っていたのだ。
男の目には涙があふれ、誰にも聞こえない声で呟いた。
（俺は、自由なのか…。こんな俺でも、自由に生きる権利があるのか…。）
刑務所内は、その男の魂に響く叫びによって歓喜の雄たけびに渦巻いた。
『・・・そうか！
自由だ！
俺たちは、自由だあああ！！！！自由なんだあああ！！！！』
私はその漫画の名前を忘れてしまったし、絵は、どちらかという嫌いなタッチだった。
だが、たしかにその漫画に描かれた人生の最深部に差した光が、
私のような浅はかな読み手に対しても力強く差したことが伝わってきたのだ。
何とも深い、人間の心理を考え抜かれた哲学であろうか。
"泥"も"星"も見ることのできないその空間で、男たちは、自由を見出したのだ。
たった一人の男の、『考え方』によって。
人間は、自由な生き物だ。
その人生、前を向くも、下を向くも、本人達の思うがまま。
あなたはこの話を聞いても、まだ人生の主体者になれないというのだろうか。
by：一瀬雄治 （Yuji Ichise）
サルベージエンタープライズ株式会社代表取締役社長。
1983年、東京都生まれ。
