人とチンパンジーのDNAは99.9%同じだという話がある。有名である。つまり、そこまで一致する動物はチンパンジーのほかには存在しないわけだ。しかし、なぜそこまで一致するのにも関わらず、人とチンパンジーはこうも違っているのだろうか。『シマウマの縞 蝶の模様 エボデボ革命が解き明かす生物デザインの起源』にはこうある。
14歳になる私の姪ケイティ―は、フロリダ州タンパの動物園で類人猿と対面し、父親に鋭い質問を投げかけた。
ケイティが言っているのは、DNAの塩基配列で比較すると、チンパンジーと人は99%近く共通しているという、よく言及される数字である。(中略)
98.8%のパラドックスとホモ・サピエンスの作り方
人類進化の過程で発生様式と身体的特徴を変化させた究極の原因は遺伝である。我々のDNAのどこかに、人間とチンパンジーと初期人類を隔てている違いが書き込まれているのだ。(中略)ヒトゲノムのDNA配列は、およそ30億塩基対からなっている。チンパンジーのDNAとは、その塩基のうちの98.8%が同じである。つまり違いはわずか1.2%だけということになる。人間と他の動物との比較で、DNA配列がこれだけしか違わない動物は他にはいない。ただし、1.2%の違いは、3600万塩基対の違いに相当する。
つまり、確かに人とチンパンジーは、DNAは98.8%(ほぼ99%)同じだ。しかし、塩基対(えんきつい)は3600万も違う。塩基対というのは、ざっくり言うと、DNAを更に細かく考えたときの単位のようなものだ。
30億ある塩基対の中で、3600万も違うとなると、確かに結構違うという印象が浮かぶようになる。更に人間同士で言うなら、約300万塩基対の違いがあるという。この場合は、血縁関係のない人間同士の話だ。
こう考えると、やはり結構な違いがあることが分かる。更に言うと、マウスのゲノムと人のゲノムを比べると、人の全遺伝子の99%以上に相当する遺伝子がマウスでも見つかるという。その逆もまた然りである。
とにかく、この類の話はとても奥が深いということだ。遺伝子やDNAやゲノムといったキーワードを出さなければならず、人間や動物だけじゃなく、昆虫や微生物といった、ありとあらゆる生命の『要素』に目を向けなければならない。どちらにせよ言いたいのはこういうことである。
ガリレオとコペルニクスが中心となって、地球が太陽の周りを回っているという『事実』に追いついたように、アインシュタインが中心となって相対性理論という『事実』に追いついたように、湯川秀樹が中心となって陽子と中性子の間にある『中間子』を発見したように、これからも人は、この世に最初からある『事実』を、知恵を振り絞って『発見』するだけなのだ。
もちろん、人間が『すべて』を理解することはできないだろう。
参考文献