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皆を『システム2』にするか『魚を与える』か

Inquiryで導き出したもの、導き出していくもの(中)

 

上記の記事でも書いたが、『東大、京大で一番読まれた本』として有名な、『プロスペクト理論』でノーベル経済学賞を取ったダニエル・カーネマンの著書、『ファスト&スロー』には、『人の脳の中のシステム』には2つの種類があるとしている。それが、『システム1』と『システム2』だ。

 

システム1

自動的に高速で働き、努力はまったく不要か、必要であってもわずかである。また、自分のほうからコントロールしている感覚は一切ない。

システム2

複雑な計算など頭を使わなければできない困難な知的活動にしかるべき注意を割り当てる。システム2の働きは、代理、選択、集中などの主観的経験と関連付けられることが多い。

 

 

例えばコンビニをうろついている男性が雑誌を見て、

 

あっ、あのグラビアモデル、エロいな…

 

と考えたり、街を歩く女性が、

 

あっ、あの人格好いいな…

 

ととっさに考えることがある。その人の内面性がどうだとかそういうことは一切考慮せず、パッと頭に思く。そして、次のシーンではもうそれを忘れている。そのように、人の脳のモードというのはいつもは『省エネモード』でいて、そのせいで思慮の深さは浅い。その『深さ』のレベル別を言い表した言葉が、ここで言う『システム1』と『システム2』だと考えれば間違いない。先ほどの説明は本の抜粋だから、もう一度私が簡潔版にして説明しなおそう。

 

システム1

思慮浅い状態。子供は常に『システム1』が起動している。

システム2

思慮深い状態。子供はなかなか『システム2』を起動できない。

 

イメージは下記の画像である。

 

 

さっきの脳の画像もいいが、この画像はこの『システム1,2』の仕組みを考える際にとてもイメージしやすい画像となる。もちろんこの画像で言う『OFF=システム1』、『ON=システム2』となる。それでは本からこの2つの脳のモードがどういう時に働き、何を行うかということを抜粋してみよう。

 

システム1が自動的に行うことの例

  • 二つの物体のどちらが遠くにあるかを見て取る。
  • 突然聞こえた音の方角を感知する。
  • 『猫に〇〇〇』という対句を完成させる。
  • おぞましい写真を見せられて顔をしかめる。
  • 声を聞いて敵意を感じ取る。
  • 2+2の答えを言う。
  • 大きな看板に書かれた言葉を読む。
  • 空いた道路で運転をする。
  • チェスでうまい差し手を思いつく(あなたがチェスの名人だとする)。
  • 簡単な文章を理解する。
  • 『几帳面で物静かでこまかいことにこだわる』性格はある職業のステレオタイプに似ていると感じる。

 

どれも『簡単にできること』、『思慮深くなる必要がないこと』という共通点がある。努力はゼロか、ほんのわずかしかない。

 

システム2が行うことの例

  • レースでスタートの合図に備える。
  • サーカスの道化師に注意を集中する。
  • 人が大勢いるうるさい部屋の中で、特定の人物の声に耳を澄ます。
  • 白髪の女性を探す。
  • 意外な音を聞いて、何の音か記憶をたどる。
  • 歩く速度をいつもより早いペースに保つ。
  • ある社交的な場で自分のふるまいが適切かどうか、自分で自分を監視する。
  • あるページにaの文字が何回出てくるか数える。
  • 自分の電話番号を誰かに教える。
  • 狭いスペースに車を停める(あなたは腕利きの駐車係ではないとする)
  • 二種類の洗濯機を総合的に比較する。
  • 納税申告書を記入する。
  • 複雑な趣旨の妥当性を確認する。

 

 

どれも『簡単にはできない』、『思慮深さが必要』という共通点がある。注意を払わなければならず、集中力が必要で、間違ってしまうと最悪の場合は死に至るようなケースもある。これを下記のような事実を合わせて考えてみる。一番いいのは冒頭の記事を読むことだが、こうして簡易版にしないとわかりにくいこともあるから記事は重複するが、少し変えてこうして細かく分けて記事にするわけである。

 

人間はなぜ『ロウソクの問題』を解けないと危険なのか?

 

これで『システム2』が何であるかということはわかったはずだ。では次に『魚』である。

 

道教の創案者、老子は言った。

 

中国の諺にもこういうものがあるが、

 

意味は同じだ。魚を与えればその人の腹は満たされエネルギーは『充填』される。だが、それではその人が一日食えるだけだ。また次の日には腹が減り、他からの充填に期待するような主体性のない人間になってしまう。

 

 

さて、どういう意味か見えてきただろうか。まだ見えてこない人の為に、次の事例を紹介しよう。その前に見るべきなのはフランスの小説家、ブールジュのこの言葉だ。

 

尾崎行雄』という識者がいた。大隈重信も一目置いた63年間という議員史上世界一の貢献をし続けた、賢い男だ。ある日この尾崎が福沢諭吉に、

 

尾崎行雄

識者(物事の正しい判断力を持っている人。見識のある人)』 にさえわかってもらえればそれでいいから、そういう本を書きたい。

 

と話したところ、福沢は、

 

馬鹿者!

福沢諭吉

 

と一喝した後、こう言った。

 

福沢諭吉は『筆一本で生きていこうとした尾崎行雄』に、的確な助言をしたのだ。確かに猿にでもわかるように本を書き、多くの人に本を売った福沢諭吉は尾崎行雄よりも一枚上手である。しかしこの話には一つの問題がある。

 

確かに『猿にでもわかるような本(例えば絵本)』を書き、それで人々が『システム1』だけで読めるからノンストレスで読めるのはいいが、人は本来『システム2』を起動して物事を考え、生きていかなければ、ブールジュの言った通り『生きたとおりに考えてしまう人生』になってしまうので、楽をしてしまった(システム1に任せっぱなしになった)ツケは大きいということになる。

 

つまり福沢諭吉の考え方だと、確かに『本は売れる』が、『魚を与える』その行為は、読者の主体性と潜在能力を埋没させる行為に近いものがある。したがって、この考え方では特定の人物だけに利益が入り、『人類の成長』という圧倒的な規模で考えたとき、利益は矮小となるのだ。皆を『システム2』にするか『魚を与える』か。あなたは一体どちらが正しいと思うだろうか。

 

Inquiryで導き出したもの、導き出していくもの(序)

 

 

 

参考文献

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