先日観たテレビ番組で、高齢や相手に展開しているある企業が特集されていた。といっても、別に老人を騙そうというわけではなく、詐欺師集団なわけでもなく、むしろ彼ら老人のニーズに応えようと奮闘している企業の話だ。
だが、それがもちろん『完全に善意で』やっているかどうかは分からない。そのビジネスモデルはすでに大手が全国を席巻していて、新規参入は難しい。やるなら差別化を図らなければならない。その企業は、
という2つの戦略で、そのビジネスモデルで結果を出そうとしている、と言えなくもない。事実それがそうなら、戦略的には正解だからである。
企業は、『管理栄養士』を雇って高齢者に体調管理の助言をするサービスを展開していた。そこまではいい。有難いことだ。だが、そこで気になるのが、
という2つのポイントである。ここで言う『若い女性』というのは『若い=未熟』ということだ。彼女らは間違いなく管理栄養士だし、本や資料を見ながら指導しているから、彼女らにとっても間違ったことをしているという意識はないだろう。だが、その次のポイントである『相手が高齢者』というところで、もしその情報が間違っていて、相手が無知だった場合、高齢者たちは『若くて未熟だが、親身になって話してくれる立派な管理栄養士』に、嘘の情報を教えられるということが、まかり通る。
彼女らが言っていたのはこうだ。
この2人は違う女性である。しかしこの情報、本当だろうか。医学博士のマイケル・グレガーの本、『食事のせいで、死なないために[食材別編]―スーパーフードと最新科学であなたを守る、最強の栄養学』にはこうある。
果物に含まれる糖分は太らない?
人気のダイエット法のなかには、果物に自然に含まれる糖(フルクトース=果糖)が体重増加につながると考えられるとして、果物を食べるのをやめるべきだと説くものがある。だが、実際には、肝機能低下や高血圧、体重増加につながるのは、添加された砂糖のみなのだ。
(省略)グラス1杯の水に大さじ3杯の砂糖を溶かして飲むと、1時間も絶たないうちに血糖値が上昇する。(中略)では、砂糖水に加えて、さらにベリー類(1カップ)を食べたらどうなるだろう?ベリー類にも糖分が含まれているため(大さじ約1杯に相当)、血糖値の上昇幅は更に大きくなるはずでは?(中略)1日当たり20品目の果物を数か月にわたって摂取するように指示した。このような果物中心の高フルクトース食(1日当たり炭水飲料8缶分に相当)を続けたにもかかわらず、結果は良好で、体重や血圧、インスリン値コレステロール値、トリグリセリド値などの悪化は見られなかった。
食事のせいで、死なないために[食材別編]―スーパーフードと最新科学であなたを守る、最強の栄養学
『口臭の95%は思いすごし』にはこうある。
お茶、コーヒーが逆効果な理由
(省略)口臭に効くと聞いて緑茶をたくさん飲んでいる人、口が渇くからといってコーヒーを一日中飲んでいる人は案外多いのです。たしかに緑茶には『緑茶カテキン』というものが含まれていて、これには消臭作用があります。しかしながら同時に『カフェイン』も含まれていて、このカフェインには強い『利尿作用』があります。つまり緑茶を飲めば飲むほどトイレが近くなり、唾液になるはずの水分もすべてオシッコになってしまう、という事態が起こっているのです。
1日当たり20品目の果物を数か月にわたって摂取するような実験をしてみても、体重や血圧、インスリン値コレステロール値、トリグリセリド値などの悪化は見られなかった。そして、カフェインやアルコールにあるのは『利尿作用』だ。お茶、コーヒー、アルコールを飲むと利尿作用によって排尿してしまい、結果的に脱水症状になりやすくなるのだ。
だが、この果糖に関しては日本の栄養の本には『果糖は太る』と書いてあるのだろう。以前、違う番組でも栄養の知識を持った人が同じことを言っていた。だから彼女には悪気はないだろうし、むしろ私が持っているこの本の著者が間違っているのかもしれない。アメリカの医学博士であるこの著者が、間違った情報を本を通して世界中にいる人々に伝え、何かを陰謀しているのかもしれない。
だが、もし彼女らがただ『勉強不足』で、ただ単にこの事実にたどり着いていない『未熟で詰めが甘い管理栄養士』ならば、ここにあるのはちょっとした『狂気』ということになる。私もたくさんの栄養の本を読んだが、フルーツと野菜は、たくさん食べるべきなのだ。
それに『お茶と脱水』に関してはどうだ。これに関してはもはや日本の栄養士ですら知っている話だ。もちろんこれも、テレビで断片的なシーンを観ただけかもしれないが、もし彼女らがただ『勉強不足』で、ただ単にこの事実にたどり着いていない『未熟で詰めが甘い管理栄養士』ならば、ここにあるのはちょっとした『狂気』ということになる。信頼するべき管理栄養士が、脱水を促す行為を助言してしまっているからである。
カフェインが入っていないお茶は『麦茶』だ。脱水症状を予防して飲むべき理想の飲み物は、
であり、水や白湯は『ダイヤモンドウォーター』と呼ぶべき飲み物で、本来はこれだけ飲んでいれば十分。特にお年寄りとなると余計なものは入れない方がいいので、推奨すべき飲み物はこのダイヤモンドウォーターであるべきだ。
また、全身の水分が不足する自己免疫疾患の『シェーグレン症候群』は40歳以上の中年女性に多く、男女比は1対9。この相手の高齢者はまさに女性の高齢者だったが、彼女のような人に対して言うとなると、ますますダイヤモンドウォーターを推奨すべきだった。
この事実が問題にならないのにはいくつか理由がある。
まず彼女らを見ている限り、悪気がないのだ。恐らく彼女らは、自分の情報が正しいと思って助言している。むしろ、高齢者の役に立っている充足感に浸っているはずだ。そして、間違えているのは彼女らだけじゃなく、その他の栄養に携わる人も、同じ間違えをしている。だから彼女らだけが粒立ててピックアップされない。そして、
等の正しい情報も伝えている。つまり彼女らは、正しい情報と間違った情報を織り交ぜて、しかも悪気なく助言しているため、この事実が問題になることはないのだ。
更には、管理栄養士がわざわざ家に来て、料理までしてくれる例もある。こうなるともはや、彼女らの知識がいかに『多少間違っている』としても、高齢者たちは文句など言えないだろう。その他のことが満たされるから、それでよくなるからだ。
表面的には、もはや最高の人間関係がここにある。心が温まり、満たされる気持ちになる。
私がここにあるのを『ある種の狂気』だと危惧したのは、このビジネスを展開する企業のトップが、『このビジネスモデルで成功するために、戦略的にやっている』可能性があるからだ。つまり、この企業の可能性は2つある。
もし、1番だった場合、このような『間違った情報の助言をする』ということがあるだろうか。本当に高齢者に尽くそうと思えば、形だけ『管理栄養士』とか『栄養の助言をしている』ということにはならない。だが、もし2番だった場合はそれがあり得るのである。社長は、
と言っていたが、確かにそれは戦略的である。全国展開すればどのみち大手とのつぶし合いになる。勝負に勝つのは体力がある企業だ。それならば、ニッチを狙って『専門家』になった方がいい。競争優位性である。マイケル・ポーターの競争戦略』にはこうある。
競争優位とは、企業が実行する活動の違いから生じる、相対的価格または相対的コストの違いをいう。競争優位を実現した企業は、活動がほかと違っているはずだ。活動の違いには二種類がある。他者と同じ組み合わせの活動を他社より優れて実行しているか、他者と異なる活動の組み合わせを選択しているかだ。もちろんここまで読んできたあなたには、一つ目の手法が最高を目指す競争だということはお見通しだろう。
だが、デメリットは『全国、世界へと幅を広げていく』うちに、たくさんの人の目に触れ、自分たちの間違っているところ、未熟なところが指摘され、良い方向に改善されていく、という機会損失を起こすことである。
これで冒頭に、
という2つのポイントが気になるところだと書いた理由が見えてきたはずだ。つまり、この企業がこのまま『戦略的』にこのビジネスモデルを展開しようとする場合、そこにある『詰めの甘さ』が命取りとなり、いずれ大きな問題に発展しかねないということだ。
なぜ管理栄養士でもない私がこの事実に気づき、管理栄養士である彼女ら、そして彼女らを雇って実践する企業がそこに気づいていないのか。そのつじつまを合わせるためには、
私は『たかがネットの情報』という見下された分野で『正確な情報』を伝えようと奮闘しているのに対し、彼ら側は『生きていくための戦略でやっている』から
というシナリオを当てはめるしかない。つまり、どちらかというと『正確な情報を伝える』ことを念頭に置いているのは、私の方だということだ(多分)。
私もいくつかの事業をやってきた。そして『カンブリア宮殿』は10年以上観ていて、企業が一度は大きな壁にぶつかり、転落してしまうパターンを何度も観てきた。彼らは皆最初は『このままやっていける』と思い込んでいて、だが実際には違ったのだ。詰めの甘さが原因で、食中毒者を出したり、無駄な展開で失敗したり。
もちろんこれが取り越し苦労ならそれにこしたことはない。だがもしそうだとするならば、2番的な戦略でやるのはいいが、やる以上は1番を理念とし、それを徹底的に追及する『本物の企業』になることだ。そうじゃないなら必ずボロが出て、そこが綻びとなって破綻され、やがて淘汰されるだろう。
参考文献