『成功』などという浅はかな言葉は、本来使いたくない。もし『成功』の定義を軽薄な人間に決めさせると、一部の倫理が崩壊した富豪の子孫も自動的に『成功者』となり、途上国に生まれた人間全員が、『敗者』ということになる。それでいいわけがないだろう。そう前置いた上で、書く。
アンテナとは、多くの人にとって説明不要だ。『公共の電波』を拾うための、受信装置である。
カミオカンデとは、多くの人にとって説明が必要だ。『宇宙にある未確認素粒子を発見するための装置』である。
素粒子とは、物質の最小の単位のこと。 我々が目に出来る素粒子(物質)には限界が有り、今もこの身体を『暗黒物質(ダークマター)』と言われる未確認素粒子が身体をすり抜けている。最近ではその『未確認素粒子』の一つであり、 50年間研究された『ヒッグス粒子』がついに発見されたことで話題になった。
身体をすり抜けるのだ。それはもはや、多くの人間が認識している素粒子(物質)の理解を超えている。だがもちろん、一流の物理学者ならその意味を理解している。
例えばこの『カミオカンデ』は、2002年に小柴昌俊東大特別栄誉教授に、ノーベル物理学賞を受賞させた。カミオカンデは、『受信装置』という広いジャンルでアンテナと同じだ。アンテナが『公共の電波』をキャッチするのと同じように、カミオカンデは、宇宙の未確認素粒子だった『ニュートリノ』をキャッチした。このニュートリノもまた、暗黒物質と同じように我々の身体をすり抜けるのである。
これによって人類は、『太陽の中身』も知ることが出来るのだ。表面で6000度、中心部で100万度を超える、驚異的な太陽の実態を把握するのに、このニュートリノは極めて重要である。つまり、人間、いや『生命の源』である太陽について、理解を深めることが出来るのだ。
私はこの二つの『受信装置』を照らし合わせたとき、非常に興味深いインスピレーションを得た。アンテナとカミオカンデは、同じ『受信装置』でも『受信する内容に明らかな差がある』。もちろん、どちらも『生活に必要』な受信であることには違いないが、『重要度』では明らかにカミオカンデが頭一つ抜きんでている。その内容は、ノーベル賞ものの重要度なのだ。
ここで私のサイトのサブタイトルを考えてみる。
“Information”<”Intelligence”.
つまり、
『情報<知性』
という意味である。だが、実は『情報(インフォメーション)』も『知性(インテリジェンス)』も、 両方とも『情報』なのである。だが、『知性』の方が『情報、知性』の両方が含まれているのに対し、『情報』は、『知性』が含まれているとは限らない。これは『インテリジェンス 武器なき戦争』を読んで、共感した事実である。
この本では『カウンターインテリジェンス』という叡智も説明している。例えば、『テロを水際で食い止める』のも、このカウンターインテリジェンスである。何かが起きてからでは遅い。起きる前から知性でもってそれを排除するのだ。
つまり、『後始末』では遅い。『前始末』が出来なければ、およそ知性があるとは言えないのである。それは、数々の愚かしい事件が起きるたびに、『事前に出来ることは無かったのか』と後から考えている人間たちを見て、皆が抱いた感想のはずである。
『知性(インテリジェンス)』というのは、カウンターインテリジェンスのように明るみになど出ないケースが多い。なぜなら『前始末』だからだ。人間の『公共』に出る『情報』とは、このレベル(知性)ではなく、一般人の話題になるレベル(情報)だからである。
誰がミスをしたとか。誰が事件を起こしたとか。誰が離婚したとか。そういう話しか『公共』には出ない。いや、厳密には『公共に出ている』のだが、それは『普通のアンテナ』ではキャッチできないということなのである。
私もこれについて悩まされた人間の一人だ。私は、類稀な優秀な恩師から、このカウンターインテリジェンスを教え込まれた。もちろん、その時はこういうネーミングは知らないが、まさにこういうことだった。
『何かが起きてからでは遅い。起きる前から防がなければならない。』
ということ。ちょうど、ゴミを増やしていくとゴキブリが出現するのと同じで、出るのを防ぐためには掃除をすることが重要なのである。
だが、多くの人間は、この『前始末』の重要さに気づくことが出来ない。わかりやすいたとえ話がある。かつて日本中を席巻した大人気漫画、『ドラゴンボール』のワンシーンだ。悟空が常々、地球や地球人に対して行っていたことがまさにそれだった。地球人の知らないところで、悟空はカウンターインテリジェンスを実行している。だから地球人は、悟空の実力を正当に評価できていない。評価されているのは、『世間一般に受けるスターを演じていたミスター・サタン』だった。
上のシーンでは、元気玉を集めて魔人ブウを倒そうというとき、地球人は悟空の言うことを聞かなかったが、サタンの言うことは聞いた。読者はこれを読んで、何かしらのインスピレーションを得たはずである。
私もこれと同じような目に遭ったことが何度もある。つまり、『世間一般は、 前始末を正当に評価出来ない』のだ。これは極めて重要な内容である。世に出ている。なのにそれを受信出来る人と出来ない人がいる。これが、アンテナとカミオカンデのそれによく似ている。
Facebookにおける『いいね!ゾーン』とは、
等の、過激で偏った意見以外の内容に向けられるゾーンである。
そういうゾーンについて書かれている内容は、人の共感を得られ、『いいね』を得やすい。つまり、もし『いいね!が全くつかない』というのなら、『その逆の内容』を書けば『いいね』を得られるのである。
ここからもわかるはずだ。つまり、『多くの人の支持を得たいなら、アンテナに対して発信』し、『意志を貫き、真理を探究したいなら、カミオカンデに引っかかれば十分、という気持ちで発信』するのだ。そういうことなのである。
では、成功するためには『アンテナ』を『カミオカンデ』に変えろとはどういうことか。それは、かの福沢諭吉のこの言葉に、大きなヒントが隠されている。『西洋事情』、『学問のすゝめ』等、福沢が書いた本は総部数340万部という驚異的な数字だった。なぜ、福沢の著書はこんなにも多くの人に読まれたのだろうか。
あるとき、筆一本で食べていこうと決意した尾崎行雄が福沢を訪ねたときの話だ。尾崎が『識者(物事の正しい判断力を持っている人。見識のある人)』にさえわかってもらえればそれでいいから、そういう本を書きたいと話したところ、福沢は
『馬鹿者!』
と一喝した後、こう言ったのだ。
これを今回の私の見解に差し替えて考えてみよう。
『アンテナが受信できる内容を発信しろ。おれはいつも公共の電波に乗るような内容を発信しているからわかるが、”公共のニーズ”というものがあるのだ。』
いよいよ今回のテーマについての答えに近づいてきた。つまり、『世の中に出て、アンテナがキャッチしているのは、必ずしも”重要”ではなく、一般的に”必要”な”情報”』だ。そして、
『カミオカンデがキャッチできる”知性”とは、同じく世に出ていて、限りなく”重要”だが、必ずしも一般的に”必要”とされていない』
のである。”必要な情報”をキャッチするのが『アンテナ』、”重要な知性”をキャッチするのが『カミオカンデ』とした場合、我々人間は、『アンテナをカミオカンデに変えることで成功する』のである。これなら、途上国の人達にも、恵まれない環境の人にも、そしてすべての人々にも、当てはまるのだ。
ちなみにこの情報はカミオカンデに向けて発信している。だが、アンテナにも引っかかるようにタイトルに『成功』というワードを入れている。しかし、これでわかったはずだ。我々がこの人生で(一般の中から)頭一つ抜きんでる(成功する)ためには、受信装置を『アンテナ』から『カミオカンデ』に変えるべし。そこに集まった情報は、『知性』である。『知性』は我々に、大きな財産を産むのである。