ギリシア神話に『サイクロプス』というキャラクターが存在する。卓越した鍛冶技術を持つ単眼の巨人であり、下級神である一族である。あるいは、これを下敷き及びベースとして後世に誕生した伝説の生物も多く存在する。
[エラスムス・フランキスキ(Erasmus Francisci)の著書に見られるキュクロープスの挿絵]
[オディロン・ルドン作「キュクロープス」。1914年。オランダ・オッテルローのクレラー・ミュラー美術館 所蔵。]
神話=『めちゃくちゃ(混沌)』。宗教=『きっちり(秩序)』の理由
上記の記事にも書いたように、神話とはそもそも自由な発想で生まれたものである。だから、単眼の神や怪物が出ようが、半魚人が出ようが、本来特に気にすることはない。だが、この『単眼』という事実について、興味深い話がある。
『シマウマの縞 蝶の模様 エボデボ革命が解き明かす生物デザインの起源』にはこうある。
ヒツジの『単眼症』は、母ヒツジが『アメリカバイケイソウ』という植物を食べてしまったことで、それに含まれる『シクロパミン』という物質が、それを巻き起こしてしまうことが判明している。(中略)妊娠中(妊娠14日前後)にこの植物を食べることが、決定的な原因だったのだ。(中略)シクロパミンは、たくさん知られている催奇形物質の一つにすぎない。胚の発生に対して有害な作用を及ぼす化学物質はたくさんある。もっとも有名なのが、もともとは妊娠中の吐き気を抑えるために開発された薬サリドマイドだろう。
『アメリカバイケイソウ』という植物を妊娠中に食べてしまうと、単眼となって赤ん坊が生まれてしまうというのだ。もしかしたら、はるか昔の何も知らない時期、『食べてはいけないもの』を食べた人間が、そのような奇病を患い、『サイクロプス』のような発想が生まれた可能性もなくはないのである。
寿命が『22歳』でこの世の生活が『苦あるのみ』であれば人は何を想う?
上記の記事にも書いたように、バックミンスター・フラーの著書、『クリティカル・パス―宇宙船地球号のデザインサイエンス革命 』にはこうある。
エジプトやメソポタミアの石に掘られた記録から、世界的社会の歴史は人類が物理学や化学、生物学全般にわたって何も知らない状態から始まっていることがわかる。人間は安全な食べ物をほんの少ししか知らなかった。あやしげな場所で摘み取られた一見おいしそうなものを食べて、多くの仲間たちが中毒死していくのをまのあたりにした。伝染病がはびこっていた。平均寿命は22歳程度で、時折言及される、聖書に言うところの『人生70年』のおよそ3分の1に過ぎなかった。
『あやしげな場所で摘み取られた一見おいしそうなものを食べて、多くの仲間たちが中毒死』とある。伝染病の防ぎ方然り、まだ今と比べて何もかもが遥かに無知だった時代、毒キノコ、マリファナ、ケシの実等といった、人間のカラダに異変を起こすものを口にしてしまった人間が、『常識の範囲』を超えてしまった行動を取ったり、あるいは、異常な症状を引き起こしたりした可能性はあり得るのである。
この妊娠中の吐き気を抑えるために開発された薬サリドマイドも、服用すると奇形児が生まれてしまったわけだ。むやみやたらに『よくわからないもの』を口にするのは避けた方がいいかもしれない。同じような例で言えば、下記の記事に書いた育毛剤である『フィナステリド』も危険だ。
フィナステリド(製品名プロペシア)・デュタステリド(製品名ザガーロ)の効果や副作用は?
フィナステリドを使用した育毛剤『プロペシア(商品名』は、米国皮膚科学会の男性型脱毛症診療ガイドラインや国際毛髪外科学会の指針では『ミノキシジル』と共に強く推奨されており、アメリカ食品医薬品局(FDA)も内服して薄毛を改善する薬として唯一有効性を認めている薬である。しかし、
むしろ、男性ホルモンに直接作用するという薬の性格上、女性や子供への使用は禁止されているのだ。特に妊娠中の女性が服用し、胎児が男の子だった場合は性器が奇形になるおそれがあるため、
AGA(男性型脱毛症)だけじゃなく、女性の薄毛問題も密かに問題視されているが、女性の場合はフィナステリドも、その強化版のデュタステリドも使用できず、使えるのは唯一『ミノキシジル』だけなので注意が必要だ。
- 女性
- 小児
- 幼児
- 乳児
- 新生児
- 重度の肝機能障害のある患者
- 製剤成分に過敏症の既往歴のある患者
- フィナステリドに過敏症を示した患者
- 肝機能障害
- 黄疸
参考文献