かつて、ネットでは堂々と『合法ドラッグ』が売られていて、援助交際も自殺ほう助も、当然のように行われていた。しかし、2014年7月からは『危険ドラッグ』と名を変え、その売り上げは激減した。その理由は乱用者による事故、事件が起き、人が死んだからである。
脱法ドラッグの名称の推移
2000年半ば | 合法ドラッグ、脱法ドラッグ |
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2005年 | 違法ドラッグ |
2014年7月 | 危険ドラッグ |
渋谷のクラブ街や道玄坂近くでも堂々と『合法ドラッグ』は売られていた。何しろ合法なのだから、販売しても違法行為で処罰されることはない。したがって、堂々とそれが販売されていたわけである。しかし、乱用者による事故、事件が起き、人が死んだ。いつの世も、規制が厳しくなるのは人間が『一線を越える』事件が起きるからであり、逆に言うとそうした一線が越えられなければ、これらの商品は単なる『嗜好品』の一部として今もなお合法に販売されているのである。
もちろんこの『合法ドラッグ』というのはこじつけだ。実際には『脱法ドラッグ』というのが正確で、違法薬物として指定されている成分を販売、服用すると違法になる、という法律はあるが、『法律にないなら違法にはならない』という事実を『援用』し、半ば力づくで適法性を主張して販売されていたわけである。
自分の主張の助けとするため、他の意見・文献などを引用したり、事例を示したりすること。事実を、自分の考え方を正当化するための手段として用いること。
では、以前からあったこの合法ドラッグ問題が、この時になぜ急に事件化することが増えてしまったのだろうか。その背景にあるのは、人間の『インターネットリテラシーの向上』である。
使いこなす技術のようなもの。
インターネットが普及し始めたころは、まだテレビでもそれについて触れるのがタブー視されている雰囲気が漂っていた。だから、ダウンタウンの松本人志が、
とボケたのが、斬新でとても面白かった。まだ誰もインターネットのことについて触れる人がいなかったからである。2ちゃんねるのことすら触れる人はいなかった。時間をかけて、少しずつインターネットを使いこなす人が増えてきた。以下の画像で考えてみよう。
キャズム(きゃずむ):情報システム用語事典 – ITmedia エンタープライズ[qoute]
これは物を買う人、つまり市場の話になるが、圧倒的なシェアを占めるのは、『キャズム』から右である。キャズムというのは、何でもない。絵の通りの、単なる『溝』の名前だ。『マジョリティ』というのは『多数派』で『マイノリティ』が『少数派』だからこの『アーリー、レイト』のマジョリティ総が、全体の7割を占める。『ラガード(遅延者)』を入れたら、8割だ。つまりここで言う、
のような先駆者や物好きは、物が一般化する前に商品を買う。ちょうど、iPhoneの新型を買うために並ぶようなイメージだ。このような人の動きのイメージは、インターネットが世に浸透するまでの流れを考えるときにも参考になる。
あの時期、ちょうど『合法ドラッグを売る業者たちは、ネットリテラシーを身につけ、ネットでドラッグが売れることを知り、ホームページを作って売り始めた』のである。それによって、安易な気持ちでドラッグを買う人が激増した。今までいた、ある程度のリスクと覚悟を背負ってドラッグを買っていた人間とは違い、彼らはボタン一つでドラッグを購入出来てしまったからこそ、そのドラッグに『支配される』ことが多かった。
もちろん、ネットの匿名性を利用して、販売する業者側も無茶をしたことも同時に影響している。成分がよくわかっていないものを販売しても、匿名で販売しているため、クレームを入れることはできない。その優位性を利用して、その薬を服用するとどうなってしまうかということを一切考慮せずに、無責任に『粗悪品』を売り続けたのである。
それともう一つの理由が『検索エンジンのアルゴリズムの緩さ』である。アルゴリズムというのは、検索結果の順位を決めるための『要因』のようなものだ。『合法ドラッグ 通販』と検索したとき、何のサイトが1位に相応しいか、そのアルゴリズムを軸にしてクローラーがランキングを決める。
検索エンジン内にあるロボットのようなもの。
現在はほとんどがGoogleだからGoogleで考えるが、Googleもたしかにこの10年でアルゴリズムのレベルを引き上げてきた。何度も様々なアップデートを重ね、現在ではもうこのような違法サイトが上位に表示されることも激減している。また、スパム行為を使って違法にランキングを上げて利益を得ることがないように、日々努力を重ねている。
しかし初期の頃は違った。当時、『Sony』と打ち込むと、1位に来るのはアダルトサイトだった。それから数年経ち、人々のネットリテラシーは向上し、検索エンジン運営会社も企業努力を重ねた。しかしその当時は、まだ十分な成長は見られなかった。
当時、『単なる飴玉』が、『最強の精力剤』として堂々と販売されていた。その手の検索では、常にその飴玉に関するウェブページが上位表示されていて、5,000円とか1万円でその飴玉が売られていた。つまり業者は、『検索エンジンのアルゴリズムの隙を突いて、単なる飴玉を、無知な人に高額で売りつけていた』のである。
つまり、合法ドラッグが危険ドラッグになってしまったのは、
という理由が影響していると言えるだろう。
『大人のための図鑑 脳と心のしくみ』にはこうある。
危険ドラッグはなぜ危険?
予測不能な危険ドラッグ
(省略)危険ドラッグには、細胞に直接作用し、神経細胞を破壊するものもあり、依存性も大麻よりも高いことがある。しかも、製品によって成分や含有量もまちまちで、人体にどのような影響を与えるか予測することが難しい。一時的な意識障害や記憶障害を起こし、大惨事を招いてしまうこともあり、脳だけでなく、筋肉組織や内臓にも障害を与えてしまうことがあるのだ。
一時的な意識障害や記憶障害。つまり、運転技術を忘れた乱用者が車を運転し、車を暴走させて死傷事件を起こしてしまったのである。
また、もし下記の記事を読んだ人がいるなら、このような『よくわからないもの』を服用することがどれだけリスキーなことか、思い知るだろう。それでも、人は今日も明日も、湧き出る好奇心と、圧倒的なドーパミン(快楽物質)の力に支配され、人生を生きてしまうだろう。人間は、失敗するまで道を改めることはできない生き物なのだ。全員とは言わないが、8割9割は、そうなのである。
参考文献