昨今、腸内細菌についてそこら中で聞くようになったはずだが、それは腸内細菌の重要性が徐々にわかってきたことが影響している。その腸内細菌だが、実は人種によって種類が違うのだ。
インペリアル・カレッジ・ロンドンで生物学の学士号と修士号を取得したのち、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンおよびロンドン動物学協会で進化生物学の博士号を取得したアランナ・コリンが2016年に書いた『あなたの身体は9割が細菌』にはこうある。
ブルキナファソの子供たちのマイクロバイオームを遺伝子解析すると、プレボテラ属とキシラニバクテル属の細菌が75%という高い割合で見つかる。(中略)ブルキナファソの子供はプレボテラとキシラニバクテルを腸に棲まわせているおかげで、食事の大半を占める穀類や、豆類、野菜から、より多くの栄養を引き出すことができる。一方、イタリアの子供の腸には、プレボテラもキシラニバクテルもいない。植物性の餌が常時なければ生き残れない両グループの細菌は、イタリア人の腸内では適応できないからだ。その代わり、イタリアの子供の腸内ではフィルミクテス門の細菌が繁栄している。
この時点で、各国の人によって腸内細菌の種類が違うということがわかったはずだが、更にこの後に続く話をまとめて、簡単に表を作ってみよう。
各国の人の腸の中にいる細菌
ブルキナファソ人 | プレボテラ、キシラニバクテル |
---|---|
イタリア人 | フィルミクテス門 |
日本人 | バクテロイデス・プレビウス |
日本人の場合、海苔やワカメ等の海藻類を食べる習慣が昔からあった影響で、海藻に含まれる炭水化物を分解するポルフィラナーゼという酵素をつくる遺伝子をもつ細菌(バクテロイデスス・プレビウス)を腸内に棲まわせている。つまり、現在の食事に関わらず、過去の日本人たち、つまり先祖たちの生活習慣が自分たちの腸内に棲む細菌に影響しているのだ。
欧米人に比べて腸の長い日本人は、かつて肉類を食べなかった。仏教伝来や、生類憐みの令等の影響により、日本人の食生活は菜食が基本であり、肉はほとんど食べなかったのである。ある専門家の話によると、日本人の飛脚の元気を見た外国人が、
なぜ日本人はこんなに体力があるんだ。もし肉を食べたらどうなるんだろう。
と思い、その飛脚に肉食を勧めたところ、 逆に疲労しやすくなり、長距離の移動ができなくなったと言う。玄米や梅干し等の素朴であり、体に負担のない栄養のある食事が、日本人の体力の源だったのである。
更に、『からだのニオイは食事で消す 体臭は内臓からの注意信号』にはこうある。
肉類、揚げ菓子、砂糖、抗生物質が悪玉菌優勢に導く
体臭のもとをつくる腸内腐敗でいちばん問題となるのが、前述のように肉類などからのたんぱく質や脂質のとりすぎです。消化・分解に時間がかかり、欧米人に比べて腸の長い日本人はとくに腸内滞在時間が長いため、腐敗の原因になりやすいのです。また、インスタントラーメンやスナック菓子、ポテトチップスなどで使用されている油は酸化している場合が多いので、腸内環境を悪玉菌優勢に導きます。これらの食品は食べない方が賢明です。
欧米人より腸が長い日本人は、肉を食べると消化に時間がかかって、腸内腐敗を起こし、体臭の原因となるケースもある。このような事実を考えたとき、以下の記事を見てみる。
ここには、『肉によって早死にするし、長生きする』という矛盾した事実が存在しているが、この『腸内細菌』や『腸の長さ』等の話を聞くと、その理由が見えてくるようになる。『植物性の餌が常時なければ生き残れない両グループの細菌は、イタリア人の腸内では適応できない』とあったように、人間は人種によて食べるべき食事が決まっている。更に厳密にいえば、人は腸内細菌によって食べるべき食事と食べるべきじゃない食事が決まってしまうのである。
だからこの記事に書いたようなイヌイットの人たちと同じような『毎食肉食』のような生活を、『日本人』が『今から』やる場合、急にそれに適応することができず、何らかの問題が生じる可能性がある。彼らはあくまでも『先祖代々長い時間をかけてそれを食べ続けてきた』から、そういう食生活がまかり通るのであって、そうじゃない人たちには、また違った食事が適しているのである。
ただ、これはあくまでもこういう事実が存在するだけで、『肉の消化に慣れていない日本人が肉を食べる』行為をしても、大きな問題が起きないこともある。それに、そうした食事をし続ければ子々孫々へと受け継ぐ腸内細菌が変化するということもある。ただ、『お酒を飲んで顔が赤くなる人』はお酒を飲みすぎてはいけない事実があるように、もし自分に原因不明の体調不良があるようであれば、一度自分の腸内細菌について考えてみるといいかもしれない。
参考文献