睡眠不足で『糖尿病・高血圧・動脈硬化』になるリスクが上がる?
上がります。
睡眠の質がインスリンの働きや、ブドウ糖を処理する能力に影響し、それが原因で糖尿病になるリスクが上がります。また、睡眠不足が続き、自律神経が乱れ、交感神経が常に活発に働き続けるようなことがあると、眠りとともにスローダウンするはずだった血管がフル稼働を強いられ、ボロボロになり、高血圧になるのです。高血圧と動脈硬化は密接につながっていますので、動脈硬化のリスクも同時に引きあがるわけです。
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『睡眠不足で死ぬことはない』という言葉がありますが、その答えの一つは、『睡眠不足になると強制的に眠くなって結局寝るので、その時の睡眠によって体調は回復する』というものです。
『病気を治したければ「睡眠」を変えなさい』にはこうあります。
睡眠の質が悪いと86もの病気にかかるリスクが生まれる
『睡眠不足で死ぬことはない』ときどきこうした言葉を耳にしますが、睡眠専門家の立場からすれば、とんでもない話です。睡眠の質が健康に及ぼす影響を甘く見てはいけません。たとえ睡眠不足が直接の死因にはならなくても、睡眠の時間的な不足や質の悪さがもとで病気になり、命を縮めるケースもはいくらでもあります。
睡眠が不足すると86もの病気にかかるリスクが生まれ、早死にする確率も高まるとカナダのラバル大学とアメリカのウィスコンシン大学の研究チームが警鐘を鳴らしています。そしてその中には日本で『5大疾患』とされる、
も含まれています。これらのリスクすべてが睡眠不足によって高まる危険性があるということなのです。
なぜ睡眠不足で糖尿病になるのでしょうか。
その前に糖尿病になる流れについて簡単に見てみましょう。まずは健常者のケースです。
これが人が食事をした際に動く通常の血糖値の流れです。血糖値は誰もが食後に高くなりますが、その後インスリンの分泌によってそれが元に戻りますので、何も問題は起きません。しかし、糖尿病になると違います。
何らかの理由で膵臓から『インスリン』が出なくなるんですね。これが糖尿病の正体です。これによって高血糖状態が続くので、血管がもろく、ボロボロになってしまい『血管病』になります。そして、それによって適正な栄養の供給が途絶えて全身の臓器にさまざまな障害が起こってきます。
等の様々な問題を引き起こす可能性が高くなってしまうのです。また合併症で言えば、
の3つはとりわけ危険な病気だと言われています。もしこれらの病気になると、やがて『失明』してしまったり、『人工透析』なしでは生きていかなくなり、あるいは『足の切断』も余儀なくされることがあります。糖尿病性神経障害になると、ささいな怪我で足が壊疽し、切断に追い込まれるのです。糖尿病がいかに恐ろしい病気かがわかりましたね。糖尿病の人がよく注射器を体に打つシーンを見たことがあるかもしれませんが、あれがこの『インスリン』なのです。インスリンが出ないものだから人工的に打ち、血糖値を正常に戻しているわけですね。
ではどうして睡眠不足で糖尿病になるのでしょうか。『病気を治したければ「睡眠」を変えなさい』にはこうあります。
睡眠の質がインスリンの働きを左右する
近年、そうしたインスリンの働きが、睡眠不足によって低下するという研究結果が続々と報告されています。オランダのライデン大学の研究チームは『睡眠時間が短すぎると、たとえ血糖値が正常な人でも、インスリンの作用を受ける細胞の感受性自体が悪くなり、糖尿病になるリスクが高くなる』との研究結果を発表しました。またアメリカのシカゴ大学も興味深い発表を行っています。その内容は、健康な若者たちの睡眠時間を4時間に制限したところ、ブドウ糖を処理する能力が急激に落ち、たった1週間で初期の糖尿病患者のような高血糖状態になってしまった、という衝撃的なものでした。
この2つの能力が糖尿病の予防にとって重要だということは、先ほどの糖尿病の流れを見ればわかりますよね。睡眠不足が続くとたとえ健常者でも『軽い糖尿病状態』になってしまうという事実がわかっているのです。
更に、上記の記事で『徐波睡眠』について書きましたが、この徐波睡眠ができるかどうかも糖尿病に関係してきます。
最初の90分のノンレム睡眠で、睡眠の中で最も深い睡眠状態。脳波を測定すると、非活動状態であることを示す『大きくて徐行運転のようなゆっくりとした波形』が出現することからつけられている。
人間の睡眠で一番深い眠りは、最初の90分のノンレム睡眠にあります。したがって、この時間の寝入りをどれだけスムーズに行えるかで、睡眠の質が変わってくるわけですね。睡眠は、レム睡眠とノンレム睡眠を繰り返して行われます。
脳は起きて身体が眠っている。浅い睡眠。Rapid Eye Movement。急速な眼球運動を伴う眠り。瞼の中で目がぎょろぎょろと動いていることから、REM睡眠と名付けられた。
脳も体も眠っている。深い睡眠。
このように、『δ派のノンレム睡眠』を『4回』ほど繰り返すと睡眠時間は『約7時間』になります。しかし、ベッドについてその瞬間に眠れる人はいませんから、ベッドに0時についた場合、『約7時間半』ほど経った、7時30分に起きられれば、十分な睡眠ができたことになります。しかし、この中で最も重要な部分はどこかと強いて言う必要があるならば、最初の90分の徐波睡眠であるということになるわけです。 ただ、徐波睡眠は最初の90分だけではなく、(3回目)ほどまでのノンレム睡眠がそれに該当すると言われています。しかしとにかく徐波睡眠はとても大事だということですね。
徐波睡眠がもたらす恩恵
先ほどの記事に、上記3つのポイントについて詳しく書きましたので、徐波睡眠が担う役割についての詳細はそちらでご確認ください。
さてそんな徐波睡眠が糖尿病にどう関係しているかというと、同じくシカゴ大学の研究者がその徐波睡眠になった若い被験者に対して、騒音を流し、わざと『浅い睡眠』に引き戻す実験を行いました。するとこういう結果が出たのです。
つまり、徐波睡眠をしっかり取らなければ高血糖になるということがわかったのです。これはつまり『軽い糖尿病状態』です。したがって、睡眠不足だけじゃなく、睡眠がいかに深いか、という睡眠の質も糖尿病と関係しているわけですね。
それで言うと、糖尿病(2型糖尿病)患者のうち、72%が睡眠時無呼吸症候群があったというデータがありますが、睡眠中にこうした無呼吸や低呼吸があっても、インスリンの働きは悪くなるというのです。そしてそれは、無呼吸や低呼吸が改善されれば元通りに戻ることからも、やはり無呼吸症候群をそのままにしていると『死に近づく』というのは、いささか大げさな話ではないということになります。
では一体どうすれば睡眠不足による糖尿病のリスクを下げられるかというと、答えはあまりにも簡単ですね。文字通り、睡眠が不足しないように、たっぷりと寝ることが重要なのです。ポイントとして挙げるなら、
などということを押さえるのが大事ですね。まず『夜更かしをしない』ことですが、これは当然、今の話を聞いていればわかりますね。夜更かしをすればその分睡眠時間が不足しますから、それだけでも『インスリンの作用を受ける細胞の感受性自体が悪くなり、ブドウ糖を処理する能力が急激に落ち、糖尿病になるリスクが高くなる』わけですからね。また『無呼吸症候群の原因を作らない』ことですが、これは下記の記事を参考にして詳細を確認してください。骨格などが原因での無呼吸症候群は仕方ないにしても、
によるそれは防ぐことができるはずです。『睡眠時無呼吸症候群』(文藝春秋)にはこうあります。
アルコールは大敵
さて『ビール』です。アルコールはいびきや睡眠時無呼吸があれば、それをさらに悪くします。アルコールによって、喉の奥の空気の通り道(上気道)の筋肉がゆるむため、上気道がふさがりやすくなるのです。
特にこの2つはそのまま悪化させるとそれだけでも糖尿病や動脈硬化等の生活習慣病の原因となりますから、必ず避けたいものです。更に飲酒ですが、『お酒や薬に頼らない「必ず眠れる」技術』にはこうあります。
『寝酒』は害の方が大きい
寝酒は良くない。常識的に誰もが言うことです。(中略)飲酒をすると、大脳皮質が制限されます。飲み屋で理路整然と法律の話の出来る人などいませんし、難しい数学の問題を解ける人もいません。これはすべて、前頭葉や頭頂葉、言語中枢などの大脳皮質の働きが抑えられているからです。このことによって、床に入ってあれこれ考えるということが少なくなり、入眠潜時が短くなり、ねつきがよくなります。そして、その後の深い睡眠にも入りやすくなります。この作用のために、多くの人がお酒を飲んで寝ようとするのです。しかしいいことはここまでです。寝つきはよくなりますが、その後のレム睡眠の時間は極端に短くなります。ノンレム睡眠の深度も浅くなります。つまりすぐに目が覚めてしまうのです。
寝酒によってたとえ寝つきのよさを得られても、
等の様々な問題を引き起こすことになります。寝酒というのは、睡眠時無呼吸のリスクも上げるし、睡眠の質も下げて徐波睡眠を得るチャンスも逃すしで、踏んだり蹴ったりなんですね。
『朝しっかり起きて太陽光を浴びる』ということですが、詳細は下記の記事に書きましたので、併せてご確認ください。
簡単にまとめるとこういうことです。
まずは、日中に太陽光をたくさん浴びることが求められます。そうすることで身体が日中に活動的に動けるようになります。そして、熟睡に欠かせない『セロトニン』という神経伝達物質が光を浴びることによって分泌されます。そしてそのセロトニンが夜間に『メラトニン』という物質に変化します。
各神経伝達物質
セロトニン | 活動を助ける |
---|---|
メラトニン | 睡眠を促す |
またこのメラトニンは、光を浴びてからおよそ15時間後に分泌されます。メラトニン自体は、太陽光や電子機器等の『光』に含まれるブルーライトを浴びた直後は、分泌が抑制されます。ですから、朝7時に太陽光を浴びた場合は、22時にメラトニンが分泌され、眠気が出てくるわけです。
つまり、夜に電子機器から発せられているブルーライトを浴びてしまうと、快眠物質であるメラトニンの分泌が抑制されてしまい、そこから更に15時間待たなければいけない、というイメージになるわけです。そして下記の記事に書いたようなことが起きてしまいます。
そしてこのメラトニンですが、実は快眠を促してくれるだけではないのです。『病気を治したければ「睡眠」を変えなさい』にはこうあります。
メラトニンには脈拍、血圧、体温を下げて深い眠りを促す働きがあり、分泌が増えるほど徐波睡眠を長くできます。しかも驚くべきことに、メラトニン自体にインスリンの働きを高める効果もあるのです。
なんとメラトニンはインスリンの働きを高めるため、糖尿病関連の問題で悩む人にとってはとても心強い味方となるのです。つまり、心身共に規則正しい生活を送ると、
等、こと糖尿病(生活習慣病)に焦点を当てただけでも、これだけの恩恵があるわけですね。やはり、規則正しく、健康的な生活というのは一生意識して生きていきたいものですね。特に自分の子供を育てる際に、こうした事実というのは大きなポイントとなるのではないでしょうか。自分の子供を本当に愛しているなら、子供たちにどういう生活リズムを与えるべきか、ということはもうわかりますね。
さて、睡眠不足が糖尿病のリスクを上げることはわかりましたが、睡眠不足というのは他にも様々な病気の原因となります。例えば先ほど挙げた、
これらはすべて、『動脈硬化』が原因で発症する病気です。動脈硬化とは、動脈が硬くなったり、もろくなったりすることで、血液の流れが悪くなったり、血管がふさがったりする現象です。動脈硬化と高血圧は相関関係にあり、血圧が高まると動脈硬化になり、動脈硬化が進むと血圧が高くなります。
『病気を治したければ「睡眠」を変えなさい』にはこうあります。
たとえば、心臓に血液を送る冠動脈に動脈硬化が起き、血液の流れが途絶えれば『狭心症』になり、冠動脈が完全に詰まれば『心筋梗塞』になります。心臓から延びる血管の大動脈にこぶができる『大動脈瘤』、それが敗れる『大動脈瘤破裂』なども動脈硬化の合併症です。(中略)腎機能の低下がさらに進めば『腎不全』になり、やがては体内の老廃物を十分に排泄できなくなり、人工透析が必要になることもあります。
更に、脳の動脈に血栓が詰まって『脳血栓』となり、脳の細胞脈に血液が勢いよく流れ込んで破れることで『脳出血』となります。このあたりの病気になると死亡率も高く、たとえ治ったとしても言語障害や麻痺などの深刻な後遺症が残るケースが大半です。動脈硬化と、その引き金となる高血圧の怖さがよくわかりますね。
では、なぜ睡眠不足によって高血圧や動脈硬化になってしまうかというと、そこには『自律神経』がかかわっています。自律神経は、
などの機能を調節する役目があるのですが、睡眠不足が続き、自律神経が乱れ、交感神経が常に活発に働き続けるようなことがあると、眠りとともにスローダウンするはずだった血管がフル稼働を強いられ、ボロボロになり、高血圧になるのです。
先ほど糖尿病の場合は、『睡眠時間が短すぎると、たとえ血糖値が正常な人でも、インスリンの作用を受ける細胞の感受性自体が悪くなり、糖尿病になるリスクが高くなる』という話でしたね。そして睡眠不足はこのようにして、高血圧の原因にもなるのです。高血圧と動脈硬化の関係性については、もう説明しましたね。したがって、糖尿病の対策同様、睡眠をしっかりとることがここでも求められます。そうすれば副交感神経が優位になる時間が増えて血管が修復され、高血圧が改善されるのです。
男性は30代以降の働き盛り、女性もそれ以降の更年期あたりに、飲酒、あるいは性ホルモンの分泌量の影響で、血圧が上がりやすくなります。この問題に一番目を向けなければならないのは、『30~50代の男女』だと言えるでしょう。しかしその場合も、『6.5~7.5時間』の睡眠時間を確保することによって、それらのリスクを減らすことができます。『病気を治したければ「睡眠」を変えなさい』にはこうあります。
それはアメリカのハーバード大学医学大学院が行った、睡眠と血圧の関係を探る調査の結果を見れば明らかです。1日の平均睡眠時間が7時間以下で、血圧が高めの男女22人を対象に、一日の睡眠時間を1時間増やす実験を6週間行ったところ、それだけで血圧が8~14㎜Hgも低下したというのです。
睡眠時間が平均より若干少ない人が睡眠時間を1時間だけ増やしただけで、高血圧のリスクが下がったというデータがあるんですね。
ちなみに先ほど『糖尿病(2型糖尿病)患者のうち、72%が睡眠時無呼吸症候群があった』というデータがありましたが、実は無呼吸症候群というのは、高血圧の中でも『薬でも血圧が下がらない、治療抵抗性高血圧』という厄介な症状を引き起こす原因となっています。なんと、その治療抵抗性高血圧の8割が睡眠時無呼吸症候群だったということがわかったんですね。
重症の睡眠時無呼吸症候群の場合、睡眠時の血中酸素濃度は60%にまでダウンします。これは、エベレストなど8,000m級の山の頂にいるのと同じ異常な低酸素状態で、非常に危険な状態です。したがって、脳は交感神経を必死に働かせ、何とかこの状況でも生き延びようとします。そしてそのせいで、命は助かっても、払う代償があまりにも大きいんですね。
このようなリスクにさらされている状態であれば、いくら生活習慣を改善し、薬を飲み続けたところで血圧は下がりません。しかし、逆に言うと、睡眠時無呼吸症候群を治療さえすれば、これだけの病気から自分の身を守ることができるようになりますので、睡眠時無呼吸症候群に悩む人はぜひこうしたデータを治療の動機として検討するといいでしょう。『病気を治したければ「睡眠」を変えなさい』にはこうあります。
睡眠時無呼吸症候群を治療しただけで治療抵抗性高血圧が劇的に改善され、ほかの合併症も芋づる式によくなるケースも決して少なくはありません。
とにかく、睡眠の質を下げる睡眠時無呼吸症候群のリスク、そして睡眠の質を高めるということがどれだけ大事かということがよくわかりましたね。ま高きの記事では、うつ病や認知症と睡眠の関係についても記載しています。