歯肉炎と歯周炎の違いは?口臭が出るのはどっち?
口臭が出るのはどちらかというと歯周炎です。
プラークを放置すると歯肉の炎症が起こります。これが『歯肉炎』ですね。歯肉炎が続くと、歯周ポケットができます。歯周ポケットの中にはプラークがたまりやすく、細菌が棲みつきやすい特徴があります。炎症が進むと『歯周炎』となります。そのうち、歯周ポケットから膿が出て口臭がひどくなります。
したがって、口臭が出るのはどちらかというと歯周炎ということになります。どちらもその原因がプラークということを考えると、プラーク自体にニオイがありますから、それら歯周病があるというだけで、口臭の懸念があります。プラークコントロールをすることが求められます。その際、『歯を磨く』のではなく『プラークを落とす』ことがポイントです。
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歯周病についての詳しいことは下記の記事に書きましたが、歯周病とは、
に分けられます。ですからその2つは両方とも歯周病の一種ということですね。
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では歯周病になる流れを見てみましょう。
これが歯周病の流れです。この2つの名称は『炎症の激しさ』をあらわすのではなく、『炎症の範囲』を表します。つまり、『歯周炎の方がひどい』ということではなく、『歯周炎の方が範囲が広く炎症している』ということですね。
まあ、これを火事に置き換えた場合、燃え上がっている範囲が広い方が『ひどい状況』と表現しますから、このあたりは微妙なところです。ただ、『歯周炎の方が炎症が激しいわけではない』というのが専門家の見解ですね。
歯肉炎について
歯肉炎の種類としては、細胞や繊維が増えてくる『増殖性歯肉炎』や、歯肉に潰瘍や壊死がおこる『急性壊死性潰瘍性歯肉炎』もあります。また歯周炎の種類としては、30歳以降に発症する『慢性歯周炎(成人性歯周炎)』や、10~15歳の女性に発症する『侵襲性歯周炎』、漸進的な異常がみられる遺伝疾患として、『遺伝疾患にともなう歯周炎』があります。
各歯周病の概要
炎症 | 種類 | かかりやすい年齢 | |
---|---|---|---|
歯肉炎 | 歯肉だけ | 増殖性歯肉炎、急性壊死性潰瘍性歯肉炎 | 若い人 |
歯周炎 | 歯槽骨、歯根膜 | 慢性歯周炎(成人性歯周炎)、侵襲性歯周炎、遺伝疾患にともなう歯周炎 | 35歳以上、ただし侵襲性歯周炎は10~15歳の女性 |
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この『歯肉』というのは一般に『歯茎』と言われています。健康な歯茎は体内への細菌の侵入を防いでいるのですが、何らかの理由によってこの歯茎(歯肉)が炎症すると、そこが歯肉炎となり、歯周病が進行していくのです。
『歯周病予防と口腔ケア (ホーム・メディカ・ブックス・ビジュアル版)』にはこうあります。
歯と直接接している歯肉の部分を付着上皮という。付着上皮の細胞間の隙間からは、微量の滲出液が出ている。滲出液に含まれる好中球や免疫グロブリンなどの成分が、細菌やその毒素を処理するなど、生体の防御に重要な役割を果たしている。しかし、プラークが大量に付着すると、防御システムのバランスが崩れて炎症が起こってくる。
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上記の記事にも書きましたが、この『分泌型IgA』という免疫グロブリン(抗体)もまさに『警備隊』の役割を担っています。体内や対外には、
などがありますが、それらのうち、無害なものは通過させ、有害なものは排除するという役割を担っているのがこの『分泌型IgA』なのです。やっていることはまさに警備隊そのものですね。まるで、重要な場所に出入りする人の素性を厳重にチェックする、彼らのような仕事をしているわけです。
例えばその記事で考えると、『合成界面活性剤入りのスキンケアグッズ』は、
といった、あらゆる『バリア機能』を破壊してしまいます。『アトピーは合成洗剤が原因だった! (危険警告Books)』という本では『石鹸も危ない』と言っているほどです。アトピー性皮膚炎等に悩んでいる人は、もしかしたら石鹸すら考え直した方がいいかもしれません。
これが、こと『口の中』の環境で考えると、『大量のプラーク』が一つの原因として挙げられているわけですね。プラークの中の細菌が増えて、好中球などがそれを処理できなくなり、歯肉に炎症が起こってきます。下記の記事に免疫力の種類と働きについて表をまとめましたが、
免疫細胞の種類と働き
免疫細胞の種類 | 主な働き | |
---|---|---|
顆粒級 | 好中球 | 体内に侵入した病原体を食べる |
好酸球 | アレルギー反応 | |
好塩基球 | (同上) | |
単球 | マクロファージ | 体内に新入した病原体を食べる。リンパ球と情報交換、抗原提示 |
樹状細胞 | (同上) | |
リンパ球 | β細胞 | 病原体を攻撃する抗体の生産 |
ヘルパーT細胞 | 免疫システムの統率 | |
キラーT細胞 | 過剰な免疫反応を抑制 | |
NK細胞 | がん細胞やウイルス感染細胞を攻撃 |
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普段はこのように、各免疫細胞たちがそれらの細菌や病原体を食べたり、攻撃してくれていて、人体に害がないように警備してくれています。『免疫力が下がる』ということは、この『警備レベルが下がる』ということですから、当然、がんも含めたあらゆる病気にかかりやすくなります。
そして歯周病の問題においてもそれは同じで、『免疫力がプラークの力に押し負ける』現象が起きるわけです。それによって歯肉に炎症が起きるのです。それが『歯肉炎』ですね。
では、冒頭に書いた『歯周病になる流れ』をより厳密に書き直してみましょう。
このように歯周病は、
の4つの分類に分けて進行していくわけですね。しかし下記の記事にも書いたように、『いきなり歯周炎になる』こともあります。
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『歯周病を自分で治す本 (ビタミン文庫)』にはこうあります。
噛み合わせの異常も歯周病の引き金になる
歯周病を悪化させる要因として、最近の歯科医学界で注目されているのが、外傷性咬合(歯周組織に外相を生じさせる噛み合わせの異常)です。例えば、虫歯を治療しないでいたり、歯周病などで抜けた歯を放置したりすると、歯列(歯並び)が狂ってきます。人間の物を噛む力は非常に強く、20本の歯には100キロもの力がかかります。そのため、内側に入り込んでいたり、外側へ飛び出ていたりする歯があると、歯列に凹凸ができます。
こういう状態では、物を噛むときに特定の歯に負担がかかります。過剰に負担がかかると、負担がかかっている歯の歯槽骨が吸収されやすくなります。物理的に骨を吸収させるわけですから、この場合、歯肉炎から歯周炎へと進む過程をたどらずに、いきなり歯周炎を発症し、気が付いたときは歯が動揺しているというケースが見られます。
本来であれば歯肉炎を通ってから、歯周炎になるのが歯周病の流れです。しかしかみ合わせが悪く、外傷性咬合があると、いきなり歯周炎になるわけですね。歯が動揺してくると歯肉溝がだんだん深くなり、グラム陰性菌が好む環境となって、細菌感染しやすくなるのです。
さて、『グラム陰性菌』と出てきましたね。実は歯周炎の原因菌はこのグラム陰性菌で、歯肉炎の原因菌は『グラム陽性菌』です。『歯周病を自分で治す本 (ビタミン文庫)』にはこうあります。
歯肉炎と歯周炎では原因となる細菌が異なる
(省略)口腔内には500種類以上の細菌がいます。その多く(7割程度)は体に害を与えない善玉菌です。そのほかは悪玉菌で、そのうち歯周病の原因になる主な細菌は30種類程度です。これら口の中にいる細菌すべてを総称して口腔内常在菌ということもあれば、歯肉炎の原因となる細菌を除いたほかの細菌を常在菌と呼ぶこともあり、この点は医学的にもあいまいです。
(中略)歯周病のうち、歯肉炎の原因となる細菌には、アクチノマイセス・ビスコーサスやアクチノマイセス・ネスランディなどがあります。これらはグラム陽性菌という種類に属します。歯肉炎は、歯肉縁上に歯垢がたまることによって引き起こされます。
一方、歯周炎の原因となる細菌では、ポルフィロモナス・ジンジバリス、プレボテーラ・インターメディア、バクテロイデス・フォーサイサス、アクチノバシラス・アクチノミセテムコミタンス、トリポネマ・デンディゴラスピロヘータなどがよく知られています。これらはグラム陰性菌に属し、歯周ポケット内の歯垢で増殖します。
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上記の記事にも書きましたが、口腔常在菌は表にまとめました。
口腔内に生息するおもな細菌(口腔常在菌)
細菌の名称 | 性質と作用 |
---|---|
アクチノバシラス・アクチノマイセテムコミタンス | 侵襲性歯周炎の原因と言われる細菌 |
アクチノマイセス・ビスコーサス | 虫歯の原因となる放線菌 |
コリネバクテリウム・マツルショッティイ | 歯石の形成(石灰化)に関与するグラム陽性桿菌 |
ストレプトコッカス・ミュースタンス | 虫歯の原因となる連鎖球菌 |
ストレプトコッカス・サングイス | 虫歯の原因となる連鎖球菌 |
ストレプトコッカス・サリバリウス | 唾液中に多い連鎖球菌 |
スピロヘータ | 歯周炎の進行に関与する細菌 |
プレボテラ・インターメディア | 妊娠性歯肉炎や侵襲性歯周炎の原因菌 |
ポルフィロモナス・ジンジバリス | 侵襲性歯周炎の原因となる嫌気性菌 |
(その他に、連鎖球菌、グラム陽性球菌、歯石の形成に関与する放線菌など、約300種、数千億の細菌が常在している。)
これを今回の情報を元にさらにわかりやすくまとめるとこうなります。
各歯周病の原因菌
属性 | 細菌名 | |
---|---|---|
歯肉炎 | グラム陽性菌 | アクチノマイセス・ビスコーサス、アクチノマイセス・ネスランディ |
歯周炎 | グラム陰性菌 | ポルフィロモナス・ジンジバリス、プレボテーラ・インターメディア、バクテロイデス・フォーサイサス、アクチノバシラス・アクチノミセテムコミタンス、トリポネマ・デンディゴラスピロヘータ |
要は、『歯肉炎と歯周炎の原因菌は違う』ということですね。また『歯周病を自分で治す本 (ビタミン文庫)』にはこうあります。
歯肉炎の原因菌と歯周炎の原因菌は性質も違う
(省略)最大の違いは、グラム陽性菌が細胞内毒素を持っていないのに対し、グラム陰性菌は細胞内毒素を持っていることです。
歯周炎の原因菌であるグラム陰性菌は、細胞内毒素を持っています。そしてこの毒素で歯肉や歯槽骨を攻撃し、傷つけます。とくにアクチノバシラス・アクチノミセテムコミタンスは、ロイコトキシンという特別な内毒素を持っているほか、さまざまな歯周組織を破壊する因子を持っています。
また、グラム陰性菌はたんぱく質を部分解する酵素を持っていて、歯肉の粘膜を破壊し、組織に侵入して炎症を起こします。
各歯周病の原因菌の概要
毒素 | 属性 | |
---|---|---|
グラム陽性菌(歯肉炎) | なし | 好気性菌 |
グラム陰性菌(歯周炎) | あり。タンパク質分解酵素もあり。 | 嫌気性菌 |
こう考えると、冒頭には専門書を参考にして下記のように書きましたが、
結局は歯周炎の方が何かと厄介ですね。
また、歯周病を放っておくと、様々な病気になるリスクが上がります。
これらはすべて虫歯・歯周病から発展してしまう、あるいは密接な可能性がある病気です。
歯周病が進行するとどんな病気になる?虫歯と歯周病は原因となる細菌が違う – Inquiry. |
下記の記事には、『最初にEDという現象が起きれば、その後に脳卒中や心筋梗塞を患う可能性が出てくるわけですから、EDになった時点で対策をすれば、脳卒中や心筋梗塞といった死に繋がるような重い病気を未然に防ぐことができる可能性がある』と書きました。
高血圧はEDの原因?EDはペニスの動脈硬化 – Under”I” |
EDと脳卒中や心筋梗塞ほど密接に関係はしていませんが、虫歯や歯周病も『放っておくと大病を患う』という点では一致しています。
歯周病の段階で治療できれば儲けもんだ!
と考えて、予防を徹底しましょう。